先月書いた記事の続きです。
展示紹介
ヒッパリオンの頭骨と歯。
【#化石ハンター展 開幕に向けて準備中!】
昨日は #兵庫県立人と自然の博物館 と #琵琶湖博物館 へお伺いしました。
関西も梅雨明けして大変な暑さの中、標本の輸送は順調に進んでいます。(M)#ベロキラプトル#ヒッパリオン#ヴは小学校で習わないので不使用 pic.twitter.com/NDvo0NguIA— 【公式】化石ハンター展 (@kasekihunters) June 29, 2022
モウコノウマ(現生)の頭骨と歯、ヒッパリオンとの比較展示が非常に分かりやすいです。
プロゴノミスの臼歯、“ラットやハツカネズミなどの祖先であるプロゴノミスがヨーロッパやアジアに進出するのは、偶然にもウマ科のヒッパリオンの放散とほぼ同時期であることが知られています。このウマとネズミの大放散のことを「ヒッパリオン・データム(約1100万年前)」といいます”(展示パネルより)とのこと。
ディノクロクータ(ハイエナ類として史上最大の化石種)とブチハイエナ(現生)の頭骨、並べて展示されてあるのでディノクロクータがいかに大きかったのかがよく分かります。
ニホンエオミスの臼歯、“エオミス科は絶滅した齧歯類の仲間です。多くは森林生息者であったと考えられ、現生のヤマネのような姿でモモンガのように滑空する種もいました。この化石は魚類の咽頭歯をクリーニングしている最中に偶然母岩から発見されました。アジアではほとんど知られていない科のため、発見から論文発表まで25年近くかかりました。(発見者:安野敏勝氏)”(展示パネルより)とのこと。
何気なく展示されていますが貴重なタイプ標本です。
今月の自分的話題は,#岐阜県 #瑞浪層群 の #新属新種 の げっ歯類 #化石 #ニホンエオミス でした.#岡本泰子 先生のかわいい #復元図 ,際立つ #熊本日日新聞 の教養レベル.#Reiwa と名付けていたらもう少し普及したかも.. pic.twitter.com/wyzJP8VK9n
— Yuri Kimura (@micropaleov) May 30, 2019
なになに?
このキャラクターって一体なに?
りす?#かはくファン pic.twitter.com/5GxqqlDmXJ
— かはく【国立科学博物館公式】 (@museum_kahaku) July 5, 2019
ユーロゼノミスの下顎、“この化石が発見されたことで、ユーロゼノミスがアジアにも生息していたことがわかりました。同属の中でも最も小さい種です。日本にかつて生息していたビーバー科は多様で、ユーロゼノミスのような小型種からミノカスターのような大型種までいました。(発見者:合田隆久氏)”(展示パネルより)とのこと。
ニホンエオミスと同じく、こちらもタイプ標本が展示されています。
ラテン語で『美濃国のビーバー』を意味するミノカスターの下顎、化石ハンターである合田隆久氏が発見。
キロテリウムの全身骨格と頭骨、下顎。科学博物館が所蔵する頭骨と下顎の実物化石は初公開とのこと。
ヒマラヤ隆起の証拠である岩石。含白雲母片岩、含黒雲母片麻岩、眼球状片麻岩、含ザクロ石片麻岩。
“約5000万年前に、ユーラシア大陸の下に潜り込んだインド亜大陸は、大地を隆起させ、平均標高4000mを越える広大な台地、チベット高原を形成させました。インド亜大陸がユーラシア大陸に衝突した頃、インド亜大陸の北部には水深の浅いテチス海が存在していました。隆起前にテチス海の海底に堆積していた石灰岩は上に押し上げられ、現在はヒマラヤ山脈の一部をつくっています。当時、テチス海の海底にあった石灰岩やアンモナイト、褶曲(地震が波形に曲がること)に伴い変成した大理石などは、現在標高3000mを超えるインド亜大陸とユーラシア大陸の衝突地域で見つかります”(展示パネルより)とのこと。
ペリスフィンクテスとペリスフィンクテス入りのノジュール。
ユーアスピドセラス。
チベットケサイ復元プロジェクト
今回の特別展の最大の目玉ともいえる『チベットケサイ復元プロジェクト』、その成果が展示されています。
リアルな生体復元モデルと圧倒的迫力の全身復元骨格、間近で見ることができる機会は非常に貴重です。
チベットケサイ復元のこだわり
世界初の復元となったチベットケサイには多くのこだわりが詰まっています。少しだけ紹介すると、全身復元骨格(成体オス)の角は、吻部がケブカサイよりも幅広であるという特徴を生かし、また、角の形態についてはケブカサイの角を参考に制作しました。この角は雪かきするには効率の良い形態だったと考えられます。生体復元モデル(成体メス)と生体復元モデル(幼体)の吻部は、現生サイの中で最も近縁だとされるスマトラサイを参考に、鼻腔を覆い、鼻の穴が外気に露出する程度を出来る限り小さくしました。毛色はヒマラヤ山脈に生息するヒマラヤタールを参考にしています。2体の生体復元モデルのどちらにも首元にくせ毛をもたせることで、2頭が家族であることを意図しました。
展示パネルより
どのようにしてこの骨格レプリカや生体復元モデルが作られたのか、その裏側は本特別展の総合監修を務められた木村由莉先生監修の書籍「化石の復元、承ります。 古生物復元師たちのおしごと」(ブックマン社)で詳しく描かれています。
アウト・オブ・チベット説
本特別展では「アウト・オブ・チベット説」の証拠となる標本がいくつも展示されています。
「アウト・オブ・チベット説」とは
「アウト・オブ・チベット」説には辞書に載っているような定義はまだありません。あえて書くならば、すでに「第三の極圏」として機能していた鮮新世のチベット高原で、この地の厳しい寒さに哺乳類が「事前」適応し、第四紀更新世の本格的な「氷河時代(アイスエイジ)」が到来した時に、チベット高原を下りアジアやヨーロッパなどの高緯度地域に進出したという説です。
展示パネルより
アウト・オブ・チベット説は2011年に鄧濤(DENG, Tao)博士らが初めて提唱したもので、この説のきっかけになった化石こそが2007年にチベット高原のザンダ盆地でXiaoming Wang博士が発見したチベットケサイの頭骨です。
おわりに
本特別展の最後に素敵なメッセージが展示されていました。
化石ハンターの挑戦は続く
古生物研究の驚くべき成果は、図鑑の中に初めから存在しているものではなく、発掘調査の成果として誕生します。冒険的発想と綿密な準備によって進める化石発掘の日常は、実は砂まみれの地道な作業でもあります。そして、地層に埋まっている化石を見つけ出せるかどうかは、時に運も必要です。
運を味方につけ挑戦する価値を見出したものだけが、化石ハンターとなりえます。価値を見出せるリスクに挑んだからこそ発見された化石があり、解明された生物進化史があります。多くの人が古生物学にロマンを感じる要素はここにあるのでしょう。
この100年で科学技術は目覚ましく進歩し、調査研究の方法も発展を遂げました。しかし、化石ハンターたちをつき動かすもの、それが未知のものへの探求心であることは、むかしも今も変わりません。バトンは次の世代へと受け継がれ、これからも挑戦は続きます。探求に終わりはなく、挑戦の蓄積が科学を前へと進めるのです。
本展をご覧になった方が、次の化石ハンターとして、新たな探検に挑んでくださることを期待します。
展示パネルより
タイプ標本を含めた貴重な標本の数々、圧巻のチベットケサイ、写真や映像では伝わらない迫力は、やはり実際に体験した方が良いでしょう。素晴らしい特別展でした!
特別展「化石ハンター展~ゴビ砂漠の恐竜とヒマラヤの超大型獣~」は今月10日(月・祝)までの開催、まだ間に合います。化石が好きな方、古生物学に興味がある方、上野の近くにお住まいの方、是非足を運んでみてください!
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