Twitterで「標本バカ」なる本が9月30日に発売されることを知ったので、さっそく購入。
科博の研究員が、奥さんの実家に行った時に珍しい動物の死体をみつけて、骨格標本用に拾いたいなと思ったけど、運転中の義父さんにそれを切り出せないまま義実家に到着…でも諦めきれず、夕食時に「拾いたい」って切り出す話、良い。
死体=標本をスルーして、あとからジワジワ後悔するのわかる。 pic.twitter.com/K1gA2cTvqG
— 郡司芽久(キリン研究者) (@AnatomyGiraffe) September 25, 2020
毎夜デンキブランを飲みながら、少ーしずつ読み進めていたのですが、昨夜ついに読み切ってしまいました。
今回はこの本、「標本バカ」の紹介と読んだ感想を書いていこうと思います。
著者はかはくのモグラ博士
本書は元々、雑誌「ソトコト」で連載されているコラムをまとめたもので、下記サイトからも読むことができます。
(※本書では未収録のコラムも読めます。)
下記出版社のサイトでは、本書と全く同じ形で試し読みできるようになっています(PDF形式)。
著者は国立科学博物館(通称:かはく)でモグラを中心に研究されている、川田伸一郎先生で、本書は、モグラをはじめ、タヌキやゾウ、ニホンカモシカなど、様々な生き物の標本作りと向き合う“標本バカ”の日常をユーモラスに綴った一冊となります。
川田先生がどのような研究をされているのか、ナショナルジオグラフィック日本版サイトに記事があるので、こちらを見るのが分かりやすいでしょう。
標本が身近に感じられるようになる本
本書では、自らを「標本バカ」と評するまでに、精力的に標本作成・研究をされている川田先生の日常が書かれています。
具体的にどのようなコラムであるのかは、上で挙げた出版社のサイトやソトコトオンラインのページをご覧いただくとして、私が感じた本書の面白さ、それは、“好奇心を程良い日常感で刺激される点”にあると思います。
私のような一(いち)会社員からすると、標本と言えば、昆虫標本や博物館で見る剥製標本、昔理科室で見たホルマリン漬け(液浸標本)くらいしかイメージが無く、それがどのような工程で作られているのかなどは全くもって未知の世界の話です。
本書では、標本の作り方はもちろん、どのように集めるのか、どのように保管しているのか、標本によってどのような研究成果が得られるのか、そういった内容が平易な言葉で、ときにONE PIECEや仮面ライダー、ドラえもんといった、馴染みやすい話題とともに描かれています。
またそれらが、「へー!」と唸ってしまうような興味深いエピソードを交えて紹介されているので、読んでいると頭の中でイメージがどんどんと膨らんでいきます。
僕は学生の頃から事故や駆除で死んだ個体を集めて標本にしている。
毛皮と骨を残すのが標本作成におけるルールで、削ぎ落とした肉は本来は捨ててしまうのだが、これはちょっともったいないということで、肉の部分を味見してきた。テンやタヌキだって味をつけて火を通せば食べられないわけではない。結構おいしいのはアナグマというイタチ科の動物で、その肉は「マミ」と呼ばれている。タヌキと姿が多少似ているので、古くタヌキ鍋と呼ばれていたのは実はマミを使ったものという説もある。
「標本バカ」p.236 より
川田先生の素晴らしい文才によって、ガクジュツテキで縁遠い標本研究が噛み砕かれ、私のような一般人にも身近に感じられるようになる、それが本書の面白いところだと、私は思います。
本書を読むと、博物館で飾られている各種標本を見る目が変わります。
私もいずれまた“かはく”を訪れ、展示を楽しみたいと思っているのですが、安心して楽しめるようになるのは一体いつの日か・・・。
内容が凝縮された緻密なイラスト
「標本バカ」の面白さは上で書いた通りですが、本コラムに花を添えているのが浅野文彦氏による緻密なイラストです。
動物の特長をとらえているのはもちろんですが、その回のコラムの内容がイラスト一枚に凝縮されています。
コラム本編もさることながら、時にコミカルに描かれたイラストも必見。
氏のギャラリーサイトから、標本バカで使われているものも含めてイラストを見ることができるので、是非ご覧ください。
「へんなものみっけ!」をより理解できる「標本バカ」
私は「へんなものみっけ!」という漫画が好きです。
下記記事でも書いていますが、この漫画を描かれている早良先生は、かはくで標本を作る仕事に携われており、作中でも標本がよく出てきます。
「標本バカ」を読んでいると、「あれ?この話『へんなものみっけ!』で見たことがあるぞ!」という話が度々出てくるので、早良先生は川田先生のもとで働かれていたのかな?、と勝手に推測しております。
また、かつて川田研の一員であった、キリン博士の郡司芽久先生によると、へんなものみっけ!の主人公、清棲あかりの名セリフの元ネタは川田先生だったのだとか。
漫画「へんなものみっけ」の主人公が叫ぶ「私は日本一標本を作った研究者になるぞーー!」というセリフは、コラム執筆者の川田さんの言葉だそうですよ〜!(ご本人から聞いた) https://t.co/bZ3Jz91Gyn
— 郡司芽久(キリン研究者) (@AnatomyGiraffe) September 26, 2020
本書を読むことで「へんなものみっけ!」の理解もさらに深まるという。
「標本バカ」、へんなものみっけ!ファンにもオススメの作品です。
秋の夜長にかはく本
さて、冒頭でも書きましたが、最近の私の楽しみは、お酒を飲みながら標本バカを読む事でした。
一気に読みたいけれど、一気に読むのが勿体なくて、ちょっとずつ読み進めていたのですが、とうとう読み切ってしまったので、楽しみが一つ減ってしまいました・・・。
(もちろん、また読み直しても良いのですが)
本書の後書きでは、川田先生が本作の解説をされているのですが、その中で、標本バカの出版に携わっているのがブックマン社の藤本淳子さんであることを知りました。
そこで藤本さんのお名前で検索したところ、面白そうな記事を見つけました。
「国立科学博物館のひみつ」、ほほぉ!これもまた面白そう!次に読む本はこれにしよう!!
秋の夜長はまだまだ“かはく”で楽しめそうです。
11月発売予定の「アラン・オーストンの標本ラベル」(著・川田伸一郎、ブックマン社)、こちらの発売も実に楽しみです。
上記サイトは川田先生が書かれたオーストンに関する記事(山階鳥類研究所)です。
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